里親暮らしのリアル 本音トーク(対談)
#04 蓮人さん(20歳、里子)× 四条千賀子さん(里親)
Rento × Chikako, Shijo
僕にとって、ここは実家そのもの
大学2年生の蓮人(れんと)さん(20歳)は、2歳から現在に至るまで、東京都あきる野市の里親家庭(現在は里親ファミリーホーム「HANAIの家」)で暮らしています。「僕にとって、ここは実家そのもの」と語る蓮人さん。社会的養護のもとで暮らす子どもたちを、一様に「かわいそうな子」と決めつける社会のステレオタイプに、違和を感じるといいます。自由に前向きに道を切り開いてきた蓮人さんと、18年間にわたり蓮人さんの育ちを支えてきた四条千賀子さんが、語り合います。
(聞き手=中村いづる、清水麻子(文も)、写真=鈴木愛子)
れんと 20歳。大学2年生。趣味は音楽、漫画、友人とのおしゃべり。
しじょう·ちかこ 2001年、東京都の養育家庭に登録。里親ファミリーホーム「HANAIの家」を運営。一時保護委託を含め、これまでに40人以上の子どもを育てる。趣味は、赤ちゃんといること、おいしいものを食べること。(※年齢は2022年6月現在)
大学は、視野が広がって面白い
━━ 大学では何を専攻されていますか?
蓮人 国際関係学部で、観光学(ツーリズム)を勉強しています。
千賀子 高3のとき突然、「大学に行きたい」と言いはじめて、びっくりしました。パパに相談したら、「蓮人が望むなら、行かせてやれよ」と言ってくれて。でも落ちたので、就職するのかなと思ったら「もう1年頑張りたい」と言うので、応援しました。
蓮人 就職したくなかったっていうのが、進学の一番の理由かな。大学は学生の人数も多いですし、毎授業いろんな人とかかわるので、視野が広がって面白いです。
━━ ところで、蓮人さんが四条家に来た経緯は?
千賀子 2歳1か月のとき、姉のAちゃん(当時4歳、現在22歳)と一緒に一時保護所から来ました。
蓮人 僕は2歳だったのであまり覚えていなくて。何も言われなければ、ここが里親家庭だとは気づかず、「ここで生まれた」と思っていたと思います。
千賀子 当時、私は小学2年の里子を育てていて、その子が「妹がほしい」と言い始めました。児童相談所に聞いてみたら、「女の子、いますよ。でも姉弟の2人でお願いしたいんですが…」と言われたんです。1人も2人も変わらないので「いいですよ」と言ったら、すぐに蓮人とAちゃんがやって来たんです。
蓮人さん
四条家に来た頃の蓮人さん
━━ 2人の兄弟を受け入れて、千賀子さんはいかがでしたか?
千賀子 ごくごく普通の子たちで、手がかかることは、ほとんどなかったです。だから2人を社会的養護の子たちと思って接したことが一度もないんです。2歳で小さかったし、Aちゃんが一緒だったので、安心感があったんじゃないかな。
蓮人 とにかく、僕はずーっとここが実家という感覚で。
千賀子 反抗期もなかったよね。
蓮人 そうだね。
━━ 子どもの心の葛藤を支えるために、里親さんにはさまざまな苦労があると聞きます。そのあたりは?
千賀子 児童相談所に言われて、一度、「産んでくれたお母さんがいる」という話をしたことがあるんです。でも「俺は違うから。ここが実家だから」で終わりました。蓮人は常にプラス思考です。そういえば、実のお父さんという方の写真も見たことあるよね?
蓮人 あるけど、一度も会ったことないですし。恥ずかしいので、今さら会いたくないです。
━━ 蓮人さんの中では、生まれた家のことはもう消化している?
蓮人 うん、そうですね。
千賀子 姉のA ちゃんは、いろんな葛藤があったようです。以前、体験発表会があってAちゃんの体験話を聞く機会があったのですが、4歳にして「自分が蓮人のことを守らなきゃ」って思っていたみたいでした。
しっかりした姉だったので、心配はないと思っていました。でも今思えば、私はAちゃんの心細さや内面の微細さに十分に気付くことができていなかったのかもしれません。
━━ 子どもの心の葛藤は、年齢や性格など、いろいろ絡み合っているのですね。
千賀子 はい。でも2人を見てきて思うのは、兄弟が一緒にいるってことは、すごく大事なことということ。何かあったとき、協力し合えますよね。
Aちゃんは今、一人暮らしをしているので、ここに住んでいないのですが、今でも蓮人はAちゃんとすごく仲いいよね?
蓮人 うん。この前は一緒に、ロックグループ「King Gnu」のライブに行きました。
千賀子 時々いろいろ話しているよね、人生のこととか。だいたいAちゃんが心の声を訴えて、泣き始めて、蓮人が落ち着いて聞いている。
蓮人 うん。
千賀子さん
━━ 蓮人さんは18年の中で、どんな思い出が?
蓮人 夏休みに母の親類が経営している琵琶湖のマリーナに行くのが楽しかった。ブラックバスを釣ったり、現地で一緒に遊んでくれたお兄さんたちとの会話も好きでした。
水槽の生き物たちも自由に泳いでいます
痛みを経験すれば、他人の痛みも分かる
千賀子 蓮人は自分がやりたくないものはもう全然やらないし、とにかく自由奔放、自由人だったよね。
蓮人 (笑)そうだね。
千賀子 幼稚園が良かったんじゃない?自然に囲まれた地域柄、1日中自然の中で過ごす園があって、そこに入園させました。週に1回は山登りをしていたし、ご飯もかまどで炊いていました。トイレはなんと外! 蓮人のポケットにはいつもカブトムシやクワガタが入っていたから、一緒に洗濯してしまって、洗濯槽を開けてびっくり!失敗もたくさんしたし、生きる力、満載につけてくれた感じよね。
蓮人 うん。楽しかった。
千賀子 小学校になると、幼稚園ほど楽しくはなくなっちゃった。蓮人は自由のままでいたかったんだよね。
蓮人 うーん、どうだろう。高校までは本当に何も考えずに生きてきたんで。目の前の楽しいことをやるっていう。
千賀子 今を生きるってやつね(笑)。
蓮人 小学校ではクラスのみんなを集めてサッカーしたり、楽しかったよ。
千賀子 サッカーやって、眼鏡を壊してきたり!人生お笑いの世界で生きていたよね。「俺、後ろ向きに歩いて学校に行く」とか後ろ向きで学校に行って、車とぶつかって、また眼鏡を壊すとか。犬に咬まれたり、坂の上に敷いてあったブルーシートで滑ってけがしたり。
━━ いろいろ心配でしたね。
千賀子 いえいえ、心配はしたことないんです。痛みを経験すれば、他人の痛みも分かることにつながると思っているので。いろんなことをどんどん経験してほしい。
「HANAIの家」はみな血縁とは関係なく、一緒に暮らす仲間です
帰れば、あたり前にいる存在
━━ ちょっと凡庸な聞き方ですが、蓮人さんにとって、両親とか家族って?
蓮人 家に帰ったら、当たり前にいるという存在ですかね。
━━ すべての里子が挫折や葛藤を経験しなければならないわけではないですしね。
蓮人 そうなんです。体験発表会では、そこを主張した気がします。何のストーリー性もないから、すぐ終わっちゃったんですけど(笑)。
でも、僕のように里子が何も考えずに生きていけるような里親家庭があれば、それはそれで幸せなんじゃないかな。
━━ 一方で、葛藤を抱える子もいると思います。同じ家で暮らす子たちに、蓮人さんはどうやって接しているのでしょう?
蓮人 僕にとって、ここで一緒に過ごす子たちは家族というよりクラスメート的な存在です。仲良くなる子は仲良くなるし、気の合わない子は、ほどよくお互いの距離感をとります。僕が兄だから一緒に過ごしてあげなければ、とかは考えないですね。
千賀子 濃く接するわけじゃないけど、本当に自然に接してくれています。買い物行く間、「ちょっとだけ○○ちゃん、見てて!」と頼むと、普通に見ていてくれるし。
━━ すごく自然ですね。
千賀子 はい。ご苦労をされている里親さんが多いことも理解しているので、こんなに平和でいいのかな?と思うことはあります。唯一、困ったことといえば偏食で、肉や魚、野菜を食べないことくらいなので。
蓮人 卵かけごはん、納豆、どんぶり系が好きです。
千賀子 あとチョコパンと牛乳で生きているよね(笑)。
蓮人 そうだね。
千賀子 でも偏食であっても、病気はしないので、これでいいんだと気付かされた部分があります。これはいつもパパと言っていることですけど、私たちが子どもにしていることより、私たちが子どもたちに気付かされることのほうがはるかに多い。子どもたちが、実子のいない私たちを親にしてくれたことに、感謝の思いしかないですね。
パパも一緒に水遊び
里親になりたいと思っている方たちへ
~~蓮人さんからのメッセージ~~
里親という制度は人を救うことのできる素晴らしい制度です。家庭を求めている子どもは必ずいると思うので、やってみたいと思う気持ちが少しでもあるのなら挑戦してみて欲しいです。