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養子縁組Story#03 - Tokyo里親ナビ|子どもと里親の暮らしを知るサイト

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養子縁組Story

養子縁組Story#03

M山さんご夫妻(46歳×44歳)

「生後5日の赤ちゃんが、うちにやってきた」

M山さんご夫妻は、共働きを続けながら東京都の「新生児里親」に登録し、生後5日のY君を迎えました。仕事の合間を縫って研修や面談を受け、新生児里親になったM山さんご夫妻。Y君に初めて会った日は、引っ越し直後、しかも児童相談所の連絡から3日後というドタバタの中でしたが、M山さんご夫妻は「子どもとの暮らしがこんなに楽しいとは。新生児里親になって世界が広がった」と、笑顔で話します。

                                                              (聞き手・文・写真=清水麻子)

                     

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profile

M山さんご夫妻  <2016年、東京都の「養子縁組里親」に登録。2017年、東京都の「新生児里親」に登録>

夫(パパ) 46歳。映像ディレクター。担当は、一家の朝ごはんづくり。趣味は映画鑑賞、KPOP。


妻(ママ) 44歳。広告関連会社勤務。この4月に育児休業が終わり仕事に復帰。趣味は旅行、買い物、酒のつまみ作り。        

 ※年齢は2019年4月現在

きっかけは、ラジオで聞いた体験記エッセイ

━━東京都の新生児里親に登録したきっかけは、どんなことからだったのでしょう?

 

妻(ママ) 結婚が遅くて不妊治療をしていましたが、うまくいかなかったんです。治療をやめようということになって、でもその後に何をしようかとなったときに、社会貢献やボランティアをするのもいいなと思っていました。犬を飼いたいとか、旅行に行こうかとか夫婦でいろいろ話し合っていたとき、夫が「こういうのもあるよ」と、特別養子縁組で子どもを迎えた漫画家さんの体験記エッセイを持ってきたんです。

 

夫(パパ) たまたまラジオ番組で紹介されていたんですが、読んでみて「養子縁組や里親という選択肢もありだな」と思ったんです。共働きで一応子どもを育てられる程度の環境があったのと、親を必要としている子どももいるのであれば、僕らがふさわしいかは分からないけど登録してみるのもいいかなあと思って。

 

妻(ママ) なるほどと思いました。ボランティアでも、こういう形もあると思いました。この本を読んで、東京都のホームページを見たくらいの段階で、地域の児童相談所に電話をして相談に行ってみたんです。そうしたら児童相談所の方に「養子縁組里親を考えたことはありますか?」と言われたので、調べて登録することにしました。ずっと受け身できている気がするけど…。

 

夫(パパ) それで月に1回くらい、児童相談所から「こういう子がいるんですけど、どうですか?」とお電話をいただくようになったのですが、児童相談所の養子縁組里親の仕組みには選考がありまして(※)。2人で真剣に考えてエントリーをするんですが、2~3週間くらいして「残念でした」「選考からもれました」と電話が来て、なかなか進まない。そのうち、だんだん気持ちが「子どもがほしい」という気持ちに傾いていって…。うちの何がいけないんだろうという思いになっていって…(笑)。

  

※養子縁組里親に登録した後、実際に子どもが紹介されるには、養子縁組の候補となった子どもについて、複数の養子縁組里親候補の中から「マッチング」が行われ、選ばれた夫婦が交流を進めていくことになります。しかし候補になる夫婦が多いため、実際には子どもとのご縁がなかなかめぐってこない事情が発生するケースがあります。

 

妻(ママ) うちが賃貸だからいけないのか、とか。猫を飼ってるからかなとか、私が働いているからかなとか、車がないからかなとか…。

 

夫(パパ) そうそう、最初は「子育てできる環境があるから」くらいのつもりだったのに。

 

妻(ママ) だめだった理由とか、どういう人が決まったのかは教えてもらえないので。

 

夫(パパ) 親と同居じゃないからかなとか、上位の人はどういう人だったのかなとか。

 

妻(ママ) 大きな持ち家なのかなとか(笑)。

 

夫(パパ) 児童相談所が決めることなので、分からないことで。

 

妻(ママ) そうしている間にも、社会的養護のことを学びに乳児院への養育体験に行く機会もありました。乳児院の子どもたちと一緒に水遊びをしたりして、ますます里親になりたいという気持ちになっていきました。そんなときに、児童相談所の方に新生児委託の話を聞いて「M山さん、新生児里親という制度ができたんですよ」と言われて。それで登録してみることにしたんです。

 

━━それで、Y君が紹介されたんですか?


妻(ママ) はい。そういうことです。

 

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1歳半を超えたY君は、歩くことが上手になりました。

 

「明日退院なので、会いに来られますか?」

━━どんな感じで紹介されたんでしょうか?

 

妻(ママ) まず、新生児里親になるための面接や2日間の研修、研修後に意思確認の最終面談を受け、新生児里親に登録しました。すると、しばらくして突然、新生児里親担当の児童福祉司、Aさんから電話がかかってきたんです。「引っ越し終わりましたか?ちょっとお家を見に行ってもいいですか?」という内容でした。あ、ちょうど引っ越しをした直後のことだったので。

 

翌々日、Aさんが自宅を確認しにきました。理由を説明されなかったのが気になったので、Aさんが帰った後、夫と「今日なんでAさんきたんだろう?」っていう話になって…。

 

夫(パパ) Aさんが真剣な表情をしていたように思えたんですよ。それで、よっぽど何かがあって来られたんだろうと感じたんです。うちを候補に考えていて真剣にうちの様子を見ていたのか、それとも引っ越し直後でこれはまだ委託には早いと帰っていったのか…。

 

そうしたら翌日、今度はお昼頃、電話がかかってきて。「お願いしたい男の赤ちゃんがいます。明日退院なので、会いに来られますか?」と急に言われたんです。

 

妻(ママ) 私は夕方、会社で携帯をみたらAさんからも夫からも電話が入っていたので、折り返しかけたら、そういうことでした。楽しみにしていたのですが、その時はちょうど仕事が本当に多忙でタイミングが悪く、加えてインフルエンザで同僚が何人も休みになっていた時期でもありました。しかも引っ越し直後のことで…。

 

喜ぶというよりも「えー、どうしよう」という言葉しかなく。びっくりして喜ぶどころじゃない。「ああ、もう時間がなさすぎて、パツンパツンだ!」と思って。でもこの機会を逃したら次はないだろうとも思っていたし、仮に次が来たとしても、同じ状況のような感じでくるのだろうから、いま頑張ってやるべき時期なんだと思いました。

 

夫(パパ) それで「明日」には間に合わないけど、その翌日に会いにいくことにしたんです。

 

━━大変な混乱のさなかのY君との出会いだったのですね。

 

夫妻(ママ&パパ) はい。

 

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幸せは、突然のようにやってきた。(写真=M山さん提供)

 

━━実際のY君に最初に会ったのは、どこででしたか?

 

妻(ママ) 乳児院のお部屋で対面をしました。待っていたら、Y君が連れられてきました。「わー、小さい!」と思いました。生まれてまだ数日しか経っていなかったので、赤くて、シワシワしていると。

 

━━確かに新生児は、つるっとしたイメージとは違いますよね。


妻(ママ) はい。人間の赤ちゃんって、すごいねぇと。

 

夫(パパ) 小さすぎて…抱っこしても大丈夫かなと心配になった記憶がありますね。この小さい赤ちゃんを育てるわけだから、「かわいい、かわいい」といつまでも感傷に浸っているよりも、次に何をすべきかと常に考えることにしました。引っ越し、片付け、自分と妻の仕事をどう回すかを考えていましたね。

 

妻(ママ) 盆と正月が一緒にきたようで。会社のほうも、早急に手続きを進めなければいけませんでした。電話を頂いた当日、会社の上司に慌てて連絡を入れたところ、「すぐ行く!」と夜にもかかわらず駆けつけてくれました。開口一番「特別養子縁組の親候補になったので、明日から育休がほしいんです!育休ください!」といきなり訴えました。新生児里親に登録していたことは伝えていましたが、いざとなるとうまく説明できず…。それでも上司からは「すごい!おめでとう!」「会社を辞めてしまうのかと思った。辞めないなら良かった」「すぐ役員に報告しよう」と言ってくれ、本当にあっという間に話を進めていただき、育休に入ることができました。

 

━━Y君と暮らしはじめて、生活は変わりましたか?

 

夫(パパ) はい。平日はそれぞれのペースで暮らす典型的な共働き家庭でしたが、今は平日の夜も家族でまとまって一緒に過ごすようになりました。あと、子育てって本当に大変で、みんなこれやってるんだと、親になった人全員を尊敬するようになりました(笑)。

 

妻(ママ) 私は、繊細な赤ちゃんを見て、慎重に子育てをしなければならないと思ったのが、当時はちょっと、つらかったかな。寝てたら息が止まってしまったらとか、うつぶせ寝やミルク飲んで窒息しちゃったらとか考えてしまって…。

 

夫(パパ) 20代くらいのお母さんが、2人とか3人とか抱っことかしていると、この女性すごいなと(笑)。こんなに若いのに!とか。

 

妻(ママ) そうそう。私たちは、二人掛かりでいっぱいいっぱいなのに!死なせずに大きくさせている!とか(笑)。

 

━━すでに家庭裁判所の審判が下りて、Y君はM山さんの戸籍に入っているんですよね?

 

夫妻(パパ&ママ) はい。1歳半を超え、すでに実子と同じように暮らしています。

 

血縁がないぶん客観的に純粋に、Y君を見られる

━━今もY君が社会的養護の子であるということを、意識したりしますか?

 

夫(パパ) 血縁がないので、自分と距離があるぶん、客観的にみるというか、変に自分を投影しなくてもいいので、「Y君はこういうのが好きなんじゃないか」と「Y君は」とみることができるのがありがたいですね。「Y君はどういうことが得意なんだろう」とか、けっこう純粋に見られる。それはいいことなのかなと思いました。

 

妻(ママ) 実子だと、そうは思えないかもしれないね。でも、それは仕方ないような気がする。

 

夫(パパ) うん。仕方がない気もする。でも実子でも、本来は、子どもは親とは別人格だから。

 

妻(ママ) Y君の場合は、生みのお母さんが残していった情報以外はたどれないから、今の状況を見て、そこから判断していかないと。

 

夫(パパ) そう。だから良く観察するようになるし。先入観で見ない。それはいいことだと思います。

 

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大切なのは、過去でも未来でもない。今、この瞬間。(写真=M山さん提供 )

 

━━どうしても将来への期待も出てくるとは思いますが、そのあたりはどのように?

 

夫(パパ) 僕の場合は将来、何かになってほしいとかはなくって、好奇心旺盛に、いろんなものに触れてほしいなと思いますね。あとは、とにかく優しい人になってほしいなというのはすごく思います。そうなってもらうために、僕らが努力しないとなあと思います。

 

「生みのお母さんが幸せなら、Y君も幸せ」

━━生みのお母さんのことが、気になったりは?

 

夫(パパ) それは気になります。元気にしてるかなとか。当時は決して幸せな環境じゃなかったはずですし、今も苦しい状態が続いているなら、いろいろなサポート受けながら幸せに生きてほしいなと思います。生みの母親が幸せに生きていることがY君にとっても幸せなことなんだろうなと思います。

 

━━新生児里親は、子どもを選ぶ仕組みがない制度です。障がいのリスクや生まれの事情などを問わず、引き受けることを前提としていることに不安を抱くご夫婦も多いようですが、M山さんは?

 

夫(パパ) きれいごとなのかもしれないけど、出産のケースだって、子どもを選べないものでしょと言ってしまうと。選ぶこと自体がおこがましいというか。

 

妻(ママ) 自分たちが出産した場合でも、障がいを持って生まれる可能性はありますし…。

 

夫(パパ) うーん、子どもは選べないことが基本だからなぁ。でもきっと選べる気がするんですよね。ついつい自分の好みを追求してしまうというケースはあるのかもしれないけど。でも、例えば女の子で、この年齢で、すべてが健康で、このビジュアルでとかを選ぶというのは、本来はありえないわけで…。子どもは自分とは別人格として生まれてくるわけで、別人格の子どもを育てるということだから。

 

妻(ママ) 分からないことを含めて、楽しいんじゃないって思う。

 

夫(パパ) そう、そう、そう。選べないから、楽しいんだと思うんですよ。

 

━━これから真実告知はどうやっていきますか?

 

夫(パパ) 何かを隠すとか黙っておくとかしたくないと思っていて、日常的にも普通に血縁がないことは伝えていこうとは思っていますね。

 

妻(ママ) 今は、生みのお母さんの写真や、乳児院での生活から今までのアルバムを見せたりしています。まだピンときていないとは思いますけど。

 

夫(パパ) 真実告知の研修を受けましたが、誕生日のたびごとに、生まれてからのことを振り返るのはいいなあと思いました。乳児院からもらった写真や、うちで撮った写真を見せて、思い出を語ったりしながら。1歳のときは、それをやってみました。日常的にも伝えながらとは思っています。

 

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Y君の人生は、まだはじまったばかりです。

 

養子縁組里親さんに関心がある方へ
~M山さんご夫妻からのメッセージ~

 

夫(パパ) 新生児里親の一番のメリットは、子どもを知らないブランクの時期が少ないということ。僕たちが知らないY君は、生後、数日だけ。裏を返せば、僕たちの親としての自信にも繋がっていくと思います。また準備を含め初めての育児を支えてくれる多くの専門職の方がいるのが、心強かったです。

 

妻(ママ) 多忙のなかでY君を迎えましたが、本当に良かったと思っています。子どもがいなかったら知りえなかったことがいっぱいあって、毎日が楽しくなりました。今は言葉や概念を獲得していくところで、とても面白いです。例えば、丸くてコロコロしているものをボールだと教えていると、Y君も丸いものを指さして「ボール」と言いはじめます。教科書などで読んでいたことが、目の前で展開されると、本当に驚きますね。

 

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