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里親Story #13 - Tokyo里親ナビ|子どもと里親の暮らしを知るサイト

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里親Story

里親Story #13

E子さん(58歳)

 

 

成人した長女と次女と一緒に、里子を育てています

   

 

E子さん(58歳)が、里子のA花ちゃん(9歳)を迎えたのは、子育てが一段落した53歳のとき。ニュースで触れる虐待事件に心を痛め、家庭に困難を抱えた子どもを支援したいと思ったことが、きっかけだったそうです。現在は成人した実子(長女23歳、次女20歳)や夫(61歳)と協力しながら、約10年ぶりの子育てに邁進する日々。E子さんにお話を伺いました。

(聞き手=中村智美、中川良香、清水麻子=文、写真)

 

 

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profile

E子さん(58歳) <2019年、東京都の養育家庭(里親)に登録>

パート勤務。趣味はピアノ。ショパンの幻想即興曲が好きで、弾き語りを楽しんでいる。

夫(61歳、会社員)、長女(23歳、小学校教員)、次女(20歳、大学生)、里子のA花ちゃん(9歳, 小学3年生)との5人暮らし。

※年齢は2025 年2月現在。

 

定年を見据え、何ができるかを考えて里親に

 

━━ A花ちゃんを迎えて、何年目になりますか?

 

E子  まもなく5年になります。我が家に来たのは4歳半の春。家庭の事情で一時保護が必要になって、紙袋を1つ下げてやって来たんです。「洋服が足りないかも!」というところから始まり、当時はコロナ禍でお店は閉まっていて、バタバタした思い出が残っています。

 

━━ 一時保護がきっかけだったんですね。もともと里親制度にご関心が?

 

E子  はい、昔から人を育てることに関わりたい思いがありました。小学校の先生になろうと思って、大学は教育学部に進みました。ただ他にやりたいこともあったりして、教職以外の仕事に就いたんです。その後、結婚して子どもが生まれ、怒涛のように月日が過ぎていきました。

子育てが一段落した頃、残りの人生を考えるようになりました。夢だった教員になることも考えたのですが、年齢的にできるのは5年くらい。夫も定年が近くなり、これからできることがないか模索している途中で、船戸結愛(ゆあ)ちゃんの事件(※)があったんです。

※東京都目黒区で2018年3月、両親に虐待された結愛ちゃん=当時(5つ)=が死亡した事件。

もしかすると、里親になるのがいいかもしれない、と考えるようになりました。たまたま近くの乳児院で体験発表会あるという記事を見つけ、行ってみました。内容を詳しく聞いてみて、漠然としていた思いが「やろう」に変わりました。

 

━━ いろんなタイミングが重なったんですね。

 

E子  そうなんです。ただ登録しても委託されないこともあるし、駄目だったらファミリーサポートをやろうかな、とも思っていました。里親登録をして半年後にA花ちゃんを迎え、そのまま話が進んで、今に至っています。

 

━━ 2度目の子育ては、いかがですか?

 

E  長女と次女は、本当に手がかからなかったんですよ。A花ちゃんは毎回、先生に、「どうしましょう?」と相談です。でも解決しながら前に進んでいる実感があります。

子どもは本当に素直で、とにかく面白いんです。いろんな無駄な動きが多くて、怒りながら笑っちゃって(笑)。友人からは、「よくやるね」とか、「もう1回最初から子育てをやるの?」とか驚かれるんですけど。

 

 

「ぎゅっだよ、ぎゅっ」

 

━━ 実子さんたちも、里子育てにかかわってくださるのですか?

 

E子  はい。長女は小学校で教員をしているんです。学校の研修で学んでいるからなのか、A花ちゃんの対応が上手です。

どうにも収拾がつかない膠着状態みたいなときもあるんですね。そんなときは長女が部屋にA花ちゃんを連れてって話を聞いて、大体20分ぐらいすると、「ママごめんなさい」と、機嫌を直して私のところにくるんです。

長女に、「子どもに接するときは、ぎゅっだよ、ぎゅっ(抱きしめること)。コメントじゃなくて!」なんて言われて、「すみません」と私が頭を下げるという(笑)。

次女も助けてくれます。宿題をめぐって私とA花ちゃんが揉めていたら、次女が「私、いま暇だから見ようか?」みたいな感じで関わってくれます。30分かかっても一問も進まなかった宿題が、10分ぐらいで3枚終わらせるという(笑)。「終わったよ!」と、笑顔になる。割とそういう感じの連携プレーが多いです。

 

━━ お姉ちゃんたち、頼りになりますね。

 

E子  私が立ち行かなくなったときに、長女と次女の部屋のドアをコンコンして「ちょっと、どうしたらいい?」みたいな感じで相談しに行くんです。すると「A花、どうしたー?」みたいに声をかけてくれて、話をしたりして、落ち着く。そんな日常です。

いまA花ちゃんにとって、「ママが3人いる」状態だと思います。2人とも「うちの妹です」って紹介しているんですけど、「ずいぶん年齢が離れてるね」って言われたりしますし、たまに長女がお母さんに間違えられるときもあるんです。

 

━━ パパはどのような関わりを?

 

E子  パパとは漢字の書き取り競争をしています。A花ちゃんは、はりきるんですよ。パパに勝てると思って(笑)。

布団の出し入れや、朝食作りの手伝いもしてくれます。私が休憩したときにコーヒーを淹れてくれるとか。「ああいう旦那さん、かっこいいよね」とか言っていたら、自発的にやってくれるようになりました(笑)。

里親は、自分の未熟さをすごく思い知るみたいなところもありますし、自分が磨かれるような感覚もあります。この年になるとなかなか自分を振り返らなくなりますが、A花ちゃんが我が家に来て3日目に、「パパはなぜ毎日、ママに怒られているの?」と言う言葉にハッとし、自身の普段の言動を反省しました。自分の気づきも得られることが、よい刺激になっています。

 

━━ ご家族共通の趣味などはあるのでしょうか?

 

E子  長女が絵画、次女はパーカッション、私はピアノが好きなんです。A花ちゃんも学校で絵画や工作を作るのが好きですし、音楽やピアノも上手です。パパはちょっと違って、野球観戦ですね。

 

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                   A花ちゃんが作ったカエルのお面です。

                   まつげを長く、かわいく仕上げました。

 

自分は、どうして生きているんだろう

 

━━ 月日を積み重ねる中で、葛藤はありましたか?

 

E子  はい、それはもう。小学校2年生の終わりぐらいが、一番大変だったかな。暴言と暴力が始まったんです。多分、私には何を言っても大丈夫だという関係性ができて、素が出てきたのかもしれません。

やり場のない怒りのようなものが混じっていました。「自分は、どうして生きているんだろう」という問いに至ってしまったみたいなんですよね。自分が生きてる意味があるのか、ないのか。

 

━━ 小学校2年生で……。

 

E子  公園で靴を投げ、裸足で逃げて、警察にお世話になりかけました。A花ちゃんを追いかけて、今日1日が終わった、みたいな日もありました。全部ママが悪い、になっちゃいました。うちを出る可能性を考えてか、「私、里子なんですが、お宅の里子になっていってもいいですか?」みたいな感じで、近所に自分で働きかけていたこともありました。私はこのまま里親が続けられるのか、悩みました。児童相談所の方や里親支援専門相談員の方に、ずいぶん相談にのってもらいました。

ただ、彼女をよく観察すれば、攻撃的なことを言い続けているだけではなく、一瞬、戻る瞬間がありました。自分の態度がやっぱりよくないなとか、やっぱりママに構ってほしいとか。

冷静になって発言を聞いていると、「大好き」と言って抱きしめて欲しい、自分だけを見て欲しいのではと感じました。

A花ちゃんの根底に、深い不安があるということに気づきました。そのあたりぐらいから、私に覚悟が出てきました。私が、落ち着くことが必要だと思いました。

何を言われてもA花ちゃんを抱きしめて、「大好きだよ」と伝えるようにしました。

私がブレない気持ちの持ち方をコントロールできるようになって、A花ちゃんは、ようやく少し落ち着いてくるようになりました。

 

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                       暗闇から抜け出して、

                    未来に向かうために必要なことは。

 

原点に戻り考えた「何のために、里親を始めたのか」

 

━━ 大変な時期を乗り越えられたのですね。それでも里親を続けようとなさった理由を教えていただきたいです。

 

E子  自分は何のために、里親を始めたのかを考えました。虐待事件で亡くなった子どものことを思いました。

「子どもを1人助けることは、助けた子どもが成長し、将来たくさんの人を助けることになる」との新聞記事を読んだことがありました。負の連鎖の中にいる子どもを1人でも引き上げるために、自分は里親を始めたはずでした。

彼女だけが悪いわけではなくて、こっちの対応もいろいろまずかったところもあったのではないかと思いなおしました。彼女と同じ土俵に乗るのではなく、大きな心で包み込めるよう、私のほうが自分を成長させていかなければならないと思いました。

 

━━ 原点への回帰ですね。数年が経ち、今のA花ちゃんはいかがですか?

 

E子  間違いを指摘されても怒ったり、暴言を吐くことが少なくなり、そこからの回復も早くなってきました。

アタッチメントが不安定で、年齢より幼い部分があります。一方で早くから親元を離れているので、年齢よりしっかりしている部分があります。今でも、毎日5回位、どれくらい自分のことが好きかということを確認してきます。そのたびに、「大好きだよ」と伝えています。

 

━━ 日々、心がけていることがあったら、教えていただきたいです。

 

E 子どもを信じぬくこと、ありのままを受け容れること、励まし続けること、どこまでも支えること、心をつなぐこと、でしょうか。A花ちゃんの一番の応援団として、寄り添っていきたいです。

ココロ貯金が大事だと思っています。貯めるのは、愛情です。独り立ちするのは、コップの愛情の水があふれ出すとき。A花ちゃんはコップに穴があいているところからスタートするような状態かもしれないけれど、必ず水はあふれ出す。それまで、しっかりと貯めていきたいと思っています。

 

里親に関心がある・なりたい方へ E子さんからのメッセージ

すべての子どもが笑顔で安心して暮らせる社会に

すべての子どもが笑顔で安心して暮らせる社会を願っています。長女、次女、夫のほかにも友人、知人も、同じようにA花ちゃんを可愛がって下さります。また地域と、児童相談所の方々と共にチームを組んで、里親をしていると感じます。園や学校もそうです。周囲の支えが、頑張りの源となっています。共に育てていきますよ、という皆さんの気持ちに、感謝しています。

 
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                            子どもも大人も、多くの人たちに支えられています。
                                   

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