里親Story #10
M & Mさん
「一時保護の子ども3人を自宅に迎え、学んだこと」
Mさんと米国出身のMさんご夫妻は、実子(長女)が小学生になったのを機に、数週間~数か月の短期で、一時保護(※1)の対象となった子どもたちを自宅に迎えています。環境の違う子どもたちを育てることに戸惑いもありましたが、地域に支えてもらいながら、その成長を温かく見守ることができたといいます。ご夫妻に、お話を伺いました。
(聞き手=長谷川優子、中村智美、清水麻子=文・写真も)
M & Mさん <2019年、東京都の養育家庭(里親)に登録>
M(妻)さん パート勤務。海外の孤児支援に関心があり、大学では国際開発を学ぶ。趣味は華道、読書(ノンフィクション)。
M(夫)さん 会社員。米国出身。妻のMさんと同様に、社会貢献に関心がある。趣味はコーヒーを煎れること。
(※1)一時保護:虐待や保護者の傷病などのさまざまな事情によって、児童相談所の判断で、子どもを親元から離して保護すること。子どもの安全のため、緊急で行われることもあります。その間、子どもは一時保護所や児童養護施設、里親家庭などで養育されます。詳しくは、「里親Story#07中島善郎さん」記事内の「一時保護とは」を参照。
横断歩道の渡り方も、分からなかったB君
━━短期で里親をされているのは、どうしてなのでしょうか?
妻 私たちは、もともと孤児支援に関心があって、海外の孤児院でボランティアをしたこともあったんです。日本に孤児は少ないですが、社会的養護の子どもたちがそれに近いですよね。ちょうど長女が小学生になって、少し子育ての負担が減ったのを機に、里親制度に登録してみることにしました。
私たちは海外旅行をよくするので、里親になったら子どもたちを連れて、旅行にも行ったりしてみたかったんですね。でもそれは難しい場合もあるということでしたので、長期ではなく短期を希望しました。
━━ 最初の受け入れは、どのようなお子さんでしたか?
妻 娘より1つ年下のB君という年長さんの男の子で、児童相談所から電話をいただいて2日後に、着の身着のままの状態で、うちにやってきました。
すごく活発な子で、室内でもずっと走り回り、物を投げたりしていました。男の子の子育ては初めてでしたので、いろいろ戸惑いました。
━━ 一日中、自宅でB君のお世話を?
妻 はい、ちょっと頑張りすぎてしまいました。あと数か月で小学校に上がるのに、読書もできないし、ブランコの乗り方を知らなかった。横断歩道の渡り方も、分からなかったんです。このまま小学校に上がるのはかわいそうと思ったので、いろいろ教えてあげなきゃ、体験させてあげなきゃ……と焦ってしまい、疲れてしまいました。
━━ どのくらいの時期、養育されたのでしょうか?
妻 2か月くらいですね。小学校の入学前に、我が家を離れました。2か月間といえども家族の一員でしたし、今でもちゃんと頑張っているかなぁという気持ちが残り続けています(※2)。
(※2):一時保護委託先を巣立った子どもの情報は、子どもの最善の利益と個人情報保護の観点から、里親には伝えられないことになっています。しかし里親や子どもの気持ちを考慮して、子どもから一時保護委託先の里親に感謝の手紙が届くケースなどもあります。
Mさんが、里子たちに読んでいた絵本です。
難しかった、里子と長女との関係
━━ B君を含めて、これまで何人ぐらいを引き受けられたのですか?
妻 3人です。それぞれ個性が違う子たちでしたが、何が大変だったかというと、里子たちと長女との関係の問題が大きかったですね。
━━ 長女さんがお母さんをとられて嫉妬しちゃう……みたいな?
妻 それもありましたが、一時保護でうちに来るということは、実親と一緒にいたいのにいられないなど、大変な心の負担を持って、突然知らない家に飛び込んでくるわけですよね。そうすると、やっぱり混乱するんでしょうね、厳しい態度を示すこともありました。3番目に迎えたC美ちゃんは、特に大変でした。
迎える前、長女は使わなくなったおもちゃを一つの箱に入れて準備をしていたんですね。
でもいざ迎えてみると、C美ちゃんから「いらない」「こっちに来ないで」「あっちに行って」と拒否されるということが続きました。
朝おはようと言ったら「おはようなんて言わないで」……などと、とにかく何から何まで全部反対される。そんなこんなで長女は疲れてしまい、「ママ、お願いだから里親をやめて!」と言うようになりました。
━━ それは大変でしたね……。
妻 はい。引き受けて初めて分かることがありました。長女は元々、小さい子に対してすごく面倒見の良い子で、「大丈夫!里子ともうまくやってくれるはず」と思っていました。でも現実はそんなに甘くはありませんでした。
M&Mさんの長女が作った作品です。
「短期間であっても、愛着の問題は改善される」
━━ C美ちゃんの難しさは、愛着障害によるものなのでしょうか?
妻 私は、そう思っています。とくに夜には何か思い出すんでしょうね、突然「ヤダーッ」と言って、泣き出したりしていました。
家の中では、大きな声でずっと1人で喋っていました。たぶん、すごく寂しがり屋で、かまってほしかったのだと思います。だけど近寄っていくと、逆に「来ないで」と言われるので、どうしたらいいのか……すごく難しかったです。自分が何かめちゃくちゃなことをしてもこの人は受け入れる覚悟があるのかというのを試していたんだと思います。
夫 C美ちゃんはいつも妻の姿が見えなくなると、必死に探していました。
妻 逆に、長女や夫が外出した後、「お姉ちゃんどこ?」「お父さんどこ?」と探していました。
うちに来てすぐ公園に連れていったのですが、明らかに愛着の問題があると思ったのは、その公園にいる大人全員に親しすぎるほどの口調で話しかけ、愛情を求めようとしていたところでした。信頼できる大人を常に探していたのだと思います。
でも3週間ぐらい経った頃にまた同じ公園に行ったとき、もう来た頃の症状は消えていて、私だけに話しかけてくるようになっていたんです。こんなに短期間であっても、愛着の問題は改善されるんだ、ということを実感しましたね。
━━ その3週間はどのような生活だったのでしょう?
妻 一緒にいただけで、特別に何かをしていたというわけではなかったです。里親の私でも数週間でここまでC美ちゃんが変わることができるのならば、それが実親さんとの愛着であれば、きっともっと深いのに、と思いました。
C美ちゃんは、意志が強いぶん、ポテンシャルがある子だと思います。どんな大人になっていくのか、楽しみです。幸せに成長していってほしいですね。
━━ ご主人は、Mさんをどのように支えてくれましたか?
妻 はい。週末や夜には夫が絵本の読み聞かせをしたりして、支えてくれました。
夫 妻は24時間休みなしで、本当に大変だったと思います。仕事がない夜か週末には、なるべく支えようと思っていました。
━━ご近所の方々はいかがでしたか?
妻 ご近所にもオープンにしていたので、「あ、里子がまた来ているんだね」と分かってくれて、あたたかく接してくれました。
「犬の散歩行くけど一緒にどう?」「一緒に買い物に行こうか?」「外食に行かない?」などと、たくさん声をかけてくれましたし、里子を膝にのせてあやしてくれたりもしました。すごく支えられました。
━━ 周囲の皆さんの、その存在そのものが心強いですね。
妻 はい、本当に。
━━ これからも一時保護委託を続けるのでしょうか?
妻 そうですね、長女が成長したら、またできるかもしれないと思います。でも長女のことを考えると、しばらくは難しいかもしれないです。今はこうした私の体験を皆さんにお話しして、里親のなり手を増やしていくことのお手伝いをしていけたらと思っています。
里親に関心がある方へ M&Mさんからのメッセージ
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