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里親Story #08 - Tokyo里親ナビ|子どもと里親の暮らしを知るサイト

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里親Story

里親Story #08

菅原康弘さん(35歳)、千春さん(42歳)ご夫妻 

Yasuhiro, Sugawara & Chiharu, Sugawara 

「血縁にはこだわらない。里親はベストな選択肢でした」

菅原康弘さん(35歳)、千春さん(42歳)ご夫妻が、当時3歳だったK君(現在は5歳)の里親になったのは2019年夏のことでした。もともと血縁にこだわりはなく、思いついてすぐ養育里親に登録したという菅原さんご夫妻。はじめての子育てに戸惑いながらも、一歩ずつ、K君との関係を築いてきたという約2年間を振り返っていただきました。(聞き手・文・写真=清水麻子)

 

 

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profile

菅原さんご夫妻 <2018年、東京都の養育家庭(里親)に登録>

すがわら・やすひろ 会社員。趣味や彫刻と読書。将来、家族で野球や釣りなどのアウトドアにチャレンジをしたい。

すがわら・ちはる 専業主婦。元福祉関係職員。趣味はスパイスカレー作り。

※年齢は2021年6月現在

 

様々な社会資源が使える養育里親に魅力

 ━━里親になったきっかけから教えていただけますか?

 

千春さん 私たちには子どもがいなかったのですが、いつだったか子育てをしてみたいねという話になったんですね。もともと2人とも「血縁」へのこだわりがそれほど強くはなかったので、手始めに民間の特別養子縁組団体の話を聞きに行ってみました。でも自分たちには違うかなという感覚を抱き、児童相談所に行って養育里親について教えていただきました。私たちは近くに両親が住んでいないので子育てをする際の支え手がないのですが、養育里親なら様々な社会資源が使えるというので、自分たちのライフスタイルに合っているように思い、すぐ登録しました。

 

康弘さん 私の場合は『北斗の拳』という漫画の影響があったのかもしれません。その中に、血縁のない子どもたちを育てるストーリーがあって、いつかそういう子どもたちと一緒に暮らしてみたいと思っていたことがありました。改めてそのイメージを膨らませたときに現実的だったのが養育里親でした。

 

━━はじめてK君に会ったときの印象は、いかがでしたか?

 

千春さん K君と交流を始めることが決まったとき、K君が暮らしていた施設から、様々な情報や写真をいただいていました。実際に会ってみると、写真で見ていたよりも華奢で小さく、可愛い男の子だなぁと思いました。

 

康弘さん K君が最初になついたのは妻のほうで、私になつくまでにはだいぶ時間がかかりました。

 

千春さん 施設でお世話をしてくれていたのが女性の保育士さんで、男性があまりいなかったからじゃないかしら? 

 

康弘さん まあ、私はいろいろなことを楽観的に考えるほうなので、最初は距離があっても、時間が解決するだろうと思っていました。プラレールで一緒に遊んでくれていたりもしていましたし。そんな感じでいたら、途中から急に「お父さん」と呼ばれるようになりました。ちょっとほっとしました。

 

━━今は、どんなふうに過ごしているのでしょう?

 

康弘さん いろいろきっかけを作ってあげたいと思っています。K君はありがたいことに興味の範囲がすごく広い子なので。特にデジタル系に対する興味が強いよね。

 

千春さん 現代的な男子ですね。スマートフォンで調べたことを、ゲームの楽しみ方に生かしているので、5歳児ながらすごいなぁと思います。

 

康弘さん ほかにもキャンプやBBQがしたいとか、アウトドアにも関心を示しているので、部屋におもちゃのテントを張っています。最近は釣りや野球のセットも買ってみました。もう少し大きくなったら、トライしてみたいと思っています。

 

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いつかK君と一緒に。先日、野球のセットを買いました。

 

交流中に気を遣い過ぎてダウン 

━━順調そうですね。

 

千春さん でも、ずっと順調だったわけではないんです。候補家庭に決まり、施設に通ってK君との関係を深める交流期間が半年ほどあったのですが、その途中でなんと私がダウンしてしまったんです。

 

━━ダウンですか?

千春さん はい。せっかく我が家にきてくれたのだから「やっぱり家庭って楽しいところだね」と思ってほしいし、「おもてなしをしなければ」と気を遣い過ぎて、相当ストレスを抱え込んでしまいました。自分の中でステレオタイプな家族像を思い描いてしまっていました。お母さんが完璧に家族の支度をして、お父さんと子どもが遊んでいるところを微笑ましく見守って、おいしいごはんを出して、お風呂をちゃんと沸かしてあげて……みたいな家族のイメージですね。

 

康弘さん 確かに当時は毎日、ごちそうだった。

 

千春さん これまで子育ての経験もなかったので、「完璧なお世話」へのプレッシャーを過度に感じてしまい、「もうこれ以上、出来ない!」と、全部投げ出してしまうような状態に陥ってしまいました。

 

━━児童相談所の児童福祉司さんに相談はされたのでしょうか?

 

千春さん はい。相談したら、「適当でいいんですよ」と言われました。だけど、はじめての子育てですし、その適当というのが、分からなかったんですね。つまりどうやって手を抜けばいいのかが、思い浮かびませんでした。自分の真面目さが裏目に出てしまい、ついには床に臥せて起きられなくなってしまいました。児童相談所から、「交流を2週間くらい休みますか?」と聞かれました。でも、2週間休んだところで、解決策が見えるとも思えない。話し合いの結果、交流のペースを無理のない形にシフトしていくことになり、主人もK君にもっとかかわるような体制をとっていくことになりました。

 

━━それは大変でしたね……。


康弘さん はい。それで、妻にお任せするのではなく、私が施設に一人で通い、K君と公共交通機関を使って一緒に家まで連れて帰ってくるということをはじめました。妻が倒れて大変でしたが、逆に私がK君との絆を深められたという意味ではよかったのかもしれないです。


千春さん せっかくのK君と出会いをいろんな方の支えによって、無理なく再スタートを切れたのは、本当に良かったと思っています。
 今では当時を冷静に振り返ることができるようになりました。

 

先輩里親さんに支えられて今がある 

━━その大変だった交流期間が終わり、ようやく自宅に迎えたわけですね。

 

千春さん はい。主人は仕事に行くので、今度はずっと2人きりの生活が始まりました。すごくうれしかったのですが、K君はすごくエネルギーのある子で、朝は早いし夜は遅いし昼寝もしない。なんでも食べますし、自己主張もつよい。子どもってすごいパワーだなあと思いました。私もそんなK君のペースに少しずつ馴れていき、K君も私を「お母さん」と呼んでくれるようにもなっていきました。

 

でもそんな中で、今度はいわゆる「試し行動」が始まっていったんです。買い物に行った先のお店の中で、パタッと横になって寝てみたり、部屋の中でおもらしをしたり。他の里子さんとの交流も増えてきたりしたのですが、その子どもたちと遊んだりすると、家に帰ってくると必ずといっていいほど、荒れました。半年間はあったかなと思います。

 

康弘さん お母さんを独り占めしたいというところ、K君は結構激しかったかもね。

 

━━里子育てに、マニュアルや正解はないですね。

 

千春さん 本当にそう思います。児相に相談したら、「お母さんが1人で担うのは無理なので、もっとお父さんに協力してもらってよいのですよ。」というアドバイスをいただきました。それ以来、K君の毎日を主人と必ず共有するようにしました。あとは他の里親さんに話を聞いてもらったりして、1人で抱え込まないようにしました。
そんな中で、先輩里親さんの経験値には本当に助けられました。話を聞いてもらっていると、「うちもそうだったよ」といろいろなアドバイスをいただけましたし、試し行動は、時間がたてば、少しずつ間隔が減っていくっていう感じだよと教えてもらいました。じゃあもうちょっと待ってみようかなとか思えて、気が楽になりました。


康弘さん 先輩の里親さん、児相の方も頼りになる方が多く、周りの方に本当に恵まれたと思います。


千春さん 人付き合いが得意なタイプではないため、実は最初の頃は、里親同士のつきあいに困惑していました。でも子育てを始めてみて、つきあいなしではやっていけないことがよくわかりました。
先輩里親さんの里子さんの状況も本当に同じで、「それ、わかる!」という実感が伴うことばかり。先輩里親さんに1つ質問をすると、10個くらい、いや100個くらいかな?!それほど多くの経験談を教えていただき、たくさんの学びがあります。


康弘さん 児童相談所では、様々な専門家が里親を含めてチームになり里子を支援する「チーム養育」という理念を聞いていたのですが、実際に初めてみて、ああ、これがチーム養育なんだと実感しています。

 

子どもたちの社会でK君も学んでいる

 千春さん 先輩里親さんとの交流で他にも助かっているのは、他の里子さんと一緒に遊べる機会を作っていただいていることですね。「今日、公園行くけど、どう?」というお誘いを本当にありがたく受け止めています。

 

康弘さん K君自身も、最初は外出を嫌がることが多かったのに、今は「公園行くよ」というと喜びますし、成長を実感します。

 

千春さん 他の里子さんとの遊びでは、兄弟げんかみたいなことも起きるのですが、そういうときも他の先輩里親さんが、もうちょっと見ていようかと言っているうちに、自然に喧嘩がおさまっているとか。そういう里子たちの成長と、みんなで子育てをしているという安心感が先輩里親さんとの交流にはあります。

 

「早く迎えに来てほしかったんだよ」

━━ところでK君にはどうやって生い立ちを伝えているのでしょう?

 

千春さん 彼が聞いてきたときに、伝えるようにしています。定期的に聞いてくるんです。

 

康弘さん 寝る前と起床のときにセンチメンタルになりますね。「僕は何歳まで施設にいたの?」「何歳から今のお父さんとお母さんのおうちに来たの?」にはじまり、「早く迎えにきてほしかったんだよ」とか。


千春さん 「僕、寂しかったんだよ」とかね。


千春さん 彼に分かるように生い立ちを伝えるのは難しいのですが、この家に来たのは何歳で、あなたを産んだのはこういう女性で、産んだ女性が育てられなくて、という話をして。その繰り返しですね。K君が私の服の中に入ってきて「出産ごっこ」のようなこともしました。


康弘さん 正直に、ごまかさずに、大人の言葉で伝えています。彼もまんざらではないという感じで「ふうん」と言いながら聞いています。 

 

━━いろいろな葛藤がありますね。

 

千春さん はい。でもK君は育っていきにくい環境から出て、施設や私たちを含めた里親、彼を取り巻く人々から愛情を注いでもらい、幸せなんじゃないかと思います。実の親のもとで過ごすことだけがベストではないです。

 

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 寝る前に、お気に入りの絵本を大きな声で読んでくれます。

 

18歳で自立をしていく日のために

 ━━将来、どんなふうに成長していってもらいたいのでしょう?

 

千春さん 誰かの手を借りながらも、18歳になって、自立して暮らしてくれればと思っています。完全に1人でというのは難しいかもしれないけど、私たちでもいいし、周囲で知り合っていく誰かの手を借りながらでも、なんとか健康にやっていってくれたら。立派にならなくてもね。

 

康弘さん まだ小学校にも入っていないのに、こんなことを考えるのは早いかもしれませんが、世の中はどんどん変わってきていて、いろんな選択肢が増えましたよね。だから何かつまずいても、抜け道みたいなものも見つかると思っています。私自身が立派な生き方をしてきたわけではないですし、さらに我々の子どもの頃よりも、様々な選択肢が許容される時代になっていくと思うので、なんとかなるのではと気楽に考えるようにしています。

 

━━将来的には、K君以外にも里子さんを?

千春さん まだ分からないですが、何人かいたほうがいいのではないかとは思っています。K君が社会を学ぶという意味もありますし、私自身ももっと広い視野で里子育てができるのではないかと思います。


康弘さん 何人か里子を育てるって、いいなぁと思います。うちは農家でしたので、子どもの頃に親が朝から晩まで忙しく、遊んでもらった記憶があまりありません。兄や姉と遊ぶ中で世の中のルールなども学びました。


千春さん うちの実家も農家で多忙でしたので、同じ状況でした。私が小さい頃、果たしてこんなに両親と遊んだことがあったかな?と。


━━いつか何人か里子を迎え、ワイワイ暮らしている菅原家も見てみたいです。


康弘さん、千春さん はい。ぜんぜん将来の見通しは分からないですけど、いつかそんなにぎやかな暮らしもしてみたいなとは思っています。

 

 

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里親に興味がある・なりたい人へ 菅原康弘さん・千春さんからのメッセージ
~里親になってから得た経験や充実感が圧倒的に多い~

実際に里親になって本当に良かったです。大変ですが、里親にならなければ得られなかった経験や充実感のようなものの方が圧倒的に多いです。まだまだ日本では里親をやっていますというと珍しい眼で見られますし、人によってはネガティブなイメージを持たれているのを感じています。これから、里親になる方が増えて、里親家庭というものが当たり前に受け入れられる社会になっていけばよいと思いますし、我々もその一助となっていきたいです。

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