里親Story #06
ホッブス美香さん(53歳)、アンソニー・ホッブスさん(59歳)ご夫妻 × ゆき子さん(21歳、仮名)
Mika, Hobbs & Anthony, Hobbs × Yukiko
「愛って分かるよね。家族の一人ひとりがLoveだよね」
ホッブスさんご夫妻は、里親になって今年で17年目を迎えます。この間、育てた子どもたちは11人になります。子どもたちとの暮らしぶりは? そしてご主人の母国であるアイルランドの里親文化とは――? ホッブスさんご夫妻、そして元里子のゆき子さん(仮名)に、語り合ってもらいました。
(聞き手・文=清水麻子、写真=鈴木愛子)
ホッブスさんご夫妻 <2002年、東京都の養育家庭(里親)に登録>
ホッブス・美香 2003年に高校1年生の子を育てたのをきっかけに、これまでに長期・短期で計11人の子を育てる。2015年からファミリーホームに。また、個人的に里親のピアサポートの集まりを開催している。
アンソニー・ホッブス アイルランド出身。アイルランドの大学院で博士号を取得。日本の企業で半導体の研究者として活躍した後、現在は英文科学技術論文の指導校正などに携わる。
ゆき子 実家庭の事情で5歳から施設で過ごし、中学入学と同時にホッブス家の里子になった。
※年齢は2019年1月現在
30代のとき、児童養護施設のボランティアを経験
━━大きくて素敵なお住まいですね! いま何人の里子さんと暮らしているんですか?
美香さん 高校生の男子2人(G男君、R生君)と、小学1年生のS子ちゃんの3人です。上2人が大きいので、正直あまり手がかかることはないですね。
すでに自立している21歳のゆき子ちゃんも一緒に暮らしています。S子ちゃんのお世話、掃除、洗濯もの干しなどを手伝ってくれたりしています。
━━どうして里親を始めたのでしょうか?
美香さん 昔から、親が育てられない子に対して共感するものがあり、テレビアニメ「みなしごハッチ」などを泣きながら見ているような子どもでした。多くの孤児を育てた米国のジョセフィン・ベイカーさん(※)の生き方に憧れ、30代半ば、児童養護施設のボランティアを始めました。
(※)ジョセフィン・べイカー:米国のジャズ歌手・女優。人種差別が激しい米国で、貧困や黒人差別を経験し、生涯にわたり人種の違う多くの孤児たちを育てた女性です。
その後、夏休みなどの長期休暇にだけ子どもを預かるフレンドホーム(「養育家庭(里親)Q&A」参照 )になり、養育家庭(里親)に登録しました。そして特別支援級に在学していたM子ちゃんを高校入学と同時に迎えることができました。M子ちゃんは、高校の3年間をうちで過ごしました。
━━実子はいなくて、里子だけを育ててこられたのですか?
美香さん 実子はいません。実子は後で一人くらいは作ろうと思い里親を始めました。しかし人生は計画通りにいかないこともありますね。今では一人でも多くこの子たちを育てるために血の繋がりのある子は授からなかったものと思っています。
━━クリスチャンでしょうか?
美香さん いいえ、私は特定の信仰は持っていません。
でもなぜか親に育ててもらえない子がいるのだったら自分が育てたい、という思いが強くあります。
━━家族の会話は英語でしょうか?
美香さん 主人と私、主人とS子ちゃんは英語が多いですね。S子ちゃんはパパが大好きでいつも一緒にいるので、発音はほとんどネイティブです。外国の歌も、英語で歌いながら覚えちゃうんです。学校の先生たちから驚かれるほどです。
ゆき子さん ほんと、S子ちゃんの英語は子ども達の中で一番すごいよね。
アンソニーさん S子ちゃんはもちろん日本の学校へ行っているので日本語もわかりますが 家の中では英語でよく話します。でも英語だけじゃなく、ロシア語、ポルトガル語、スペイン語などを話していたりもするんです。ユーチューブで覚えているようです。子どもは耳がいいですね。
S子ちゃんは、歯ブラシを集めるのも好きです。
━━家族で様々な国の文化を共有できて楽しそうです。
アンソニーさん この前は、アイルランドの伝統のトライフルというお菓子を作りました。ゼリーとカスタード、ホイップクリームを重ねたお菓子です。
ゆき子さん ああー‼ あれは甘すぎて衝撃でした(笑)。たまにマーガレットおばあちゃん(※アンソニーさんの実母)も箱で送ってきてくれるけど、日本のお菓子とは全然違うんです。あんなに甘いの食べ続けて、アイルランド人は虫歯にならないのかなぁ(笑)
「僕は料理は得意じゃないけど、トライフルは美味しく作れます」とアンソニーさん。
━━マーガレットおばあちゃんは、たまに来日されるんですか?
ゆき子さん はい! この前はお友達と一緒に来てくれたんですが、すごいパワフルだったのを覚えています。一緒に鎌倉に行ったりしたこともあります。一緒に来日したお友達も里親をやっていたことがあって。すごく素敵な方でしたよ。
マーガレットおばあちゃん(右)と、里親経験者のマーガレットおばあちゃんのお友達(中)。
左はアンソニーさん。
アイルランドと日本、里親をめぐる文化の違い
━━アイルランドでは里親や里子への理解はありますか?
アンソニーさん 養子縁組や里親に育てられる子どもは、ふつうにいます。自分の子だろうが、血が繋がらない子だろうが、どこの出身の子だろうがあまり関係ないように思う。社会的養護が必要な子たちへの偏見は、聞いたことがないです。
アイルランド人は、子だくさんです。自分の子ども時代は8人、7人兄弟(姉妹)は普通だし、6人兄弟(姉妹)くらいが平均的だったんじゃないかな。僕もビッグファミリーの出身で兄弟姉妹は6人いたし、近所には16人の子どもがいる女性がいたのを覚えています。
子どもが多いと母親や父親が何人もいるような感じになるので、子どもにとっても良い面が多いと思います。僕たちもまだまだ育てられるねと言っています。
ゆき子さんの成人式には、家族でお祝いをしました。
自由が少なかった児童養護施設での暮らし
━━ゆき子さんは、施設と比べるとやっぱり里親宅のほうが良かったですか?
ゆき子さん それはどう考えたって里親宅のほうがいいですね。施設や里親もそれぞれの考え方があり、さまざまだとは思いますが、私は、ホッブス家に来られて本当に良かった。
施設では、とにかく自由が少なかったですね。洋服を買いに行くのも年に2回あるかないかで……。夏休みとかお正月は、究極に寂しかったんですよ。自宅に戻るみんなの姿が見える階段があって、そこからずーっと、「いいなあ……」と思いながら見てました。
あぁ、思い出すとなんか悲しくなってきました。
まだ施設で暮らしている友達たちのことを思うと、つらくなる。施設に暮らすたくさんの子どもたちが、里親のもとで幸せになれたらいいな。
ゆき子さんの趣味の小さな鶴の折り紙。折ると心が落ち着くのだそうです。
家庭復帰が叶わない子は、なるべく小さいうちに里親に
美香さん 子どもは実親の元育つことができるのがまず一番ですね。でも、それが叶わない可能性が高いとなった時にどうするかですね。そのためにはある程度のルールは必要になってくると思います。子ども時代はあっという間に過ぎていきます。なるべく小さいうちに里親に委託されれば、子どもも里親もいたずらに苦しまなくて済みます。子どものベストは何か、そこに真剣に向き合いたいですね。
S子ちゃんは3歳でうちに来た当初、言葉も少なくコミュニケーションもあまり取れませんでした。今ではコミュニケーションもよく取れますし、お友達にもとても優しくできます。小さい子は、もうそれだけで可愛いので、S子ちゃんが来たときから「可愛いよ」「大好きだよ」と語りかけてきたことも影響していると思います。
最近7歳になったS子ちゃんとお風呂に入っていた時に、ふとS子ちゃんに聞いてみたいなという質問が思い浮かびました。
「What is love?」
愛ってなんだろう?
S子ちゃんは、ちょっと考えて、こう答えました。
「Love is Papa Mama Brother Sister and Baby」
愛は、パパ ママ にいに ねえね と赤ちゃん だよ。
私は 驚きと喜びで胸がいっぱいになって
「愛って分かるよね、そうだよね。家族の一人ひとりがLoveだよね」と、答えました。
里親をやっていてよかったと思う瞬間でした。
子どもは小さくても、ちゃんと分かるんです。何が愛か。
社会福祉士を目指して大学への進学を決めたG男君
━━高校3年生のG男君は、春から進学ですか?
美香さん はい、小中高とずっと野球を頑張ってきましたが、大学では福祉の勉強をやりたいと言っていて、社会福祉士を目指す予定です。彼自身が乳児院や施設で育ってきたので、里親のところに来られる子が少ないことに心を痛めていますね。措置延長(※)が認められたので、ここに暮らしながら大学に通う予定です。
(※)措置延長:現在、施設や里親家庭で過ごせるのは原則18歳までですが、18歳で自立が難しい子どももいます。その場合、児童相談所が、その子の自立の困難度を判断し、20歳まで施設や里親家庭で暮らせるようにすることです。
ゆき子さん G男君は、子どもが好きなんで合ってると思います。
美香さん G男君には、これから本当に頑張ってほしい! 社会的養護が必要な子の中には、障がいを持つ子もいます。そういう二重の困難を抱えた子が、社会に出られるように応援したいと言っていますね。我が家でも何人も障がいを持つ子どもを育てましたが、その環境の中、彼なりに色々と感じていたのかと思います。
この社会って矛盾しているなって思うのは、障がいを抱える子たちのほうが、早く社会に出る仕組みになっているんですね。軽度の知的障がいであれば障がい者雇用枠で働けるので、高校を卒業したら、すぐ就職するルートができているでしょう。
逆に健常な子どもたちが、専門学校に行ったり大学に行ったりします。切ないですね。社会的養護と障がい児養育は、重なっている部分が大きいと思います。
野球の試合でG男君がもらったメダルは、家族の歴史も刻みます。
野球で体重を増やすために、持たせていたG男君の大きなお弁当。左のおにぎりは、夕方の補食用です!(ホッブス美香さん提供)
━━高校2年生のR生君は?
美香さん 最近ゲームばかりしていて心配ですが、根が真面目な子で、無遅刻無欠席で頑張っています。彼は高校入学からうちへ来ています。とても面白い子なんです。R生君も、G男君と同じように大学に行ってもらいたいと思います。
━━ホッブス家の夢はありますか?
美香さん そのうちみんなでアイルランドに行きたいって言っているんですよ。でもこれから大学に2人行くから大変ですけど、マーガレットおばあちゃんが元気なうちに行かなきゃです!
どんな子も、夢を持てる優しい社会であれば。
里親に興味がある・なりたい人へ ホッブス美香さんからのメッセージ
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